あなたは「個人事業主はなんでも経費にできてずるい」と思ったことはありませんか?結論、個人事業主の経費計上は正当な節税手段であり、適切なルールに基づいて行われています。この記事を読むことで、個人事業主の経費の実態と、合法的な節税と違法な脱税の境界線が明確にわかるようになりますよ。ぜひ最後まで読んでください。
1.個人事業主の経費が「ずるい」と言われる理由


会社員との経費の違いとは
個人事業主と会社員では、経費の扱い方に大きな違いがあります。
会社員の場合、業務に必要な支出は会社が負担するか、自分で立て替えた後に会社から精算されるのが一般的です。
一方で、個人事業主は自分で事業に必要な支出を判断し、経費として計上する裁量権を持っています。
この裁量の大きさが、会社員から見ると「自由に経費を使えてずるい」という印象を与えているのです。
しかし実際には、個人事業主も事業に必要な支出しか経費にできないという厳格なルールがあり、税務署による監視の目も常に光っています。
会社員には給与所得控除という形で一定の控除が認められているため、両者は異なる形で税制上の配慮を受けていると言えるでしょう。
個人事業主が経費にできる範囲の広さ
個人事業主が経費にできる項目は、確かに多岐にわたります。
仕入れ費、人件費、交通費、広告宣伝費、通信費、オフィス家賃、光熱費、専門家への報酬、事業用資材の購入費などが代表的です。
さらに、事業の拡大やスキルアップのための研修費用やセミナー参加費、関連書籍の購入費用、事業用の車両関連費用なども経費計上が認められています。
自宅をオフィスとして使用している場合は、家賃や光熱費の一部を「家事按分」という方法で経費にすることも可能です。
この幅広い範囲が、会社員から見ると「なんでも経費にできる」という誤解を生む要因になっています。
ただし、あくまでも事業に必要な支出に限られるという大前提があることを理解する必要があります。
プライベートと事業の境界線が曖昧になりやすい
個人事業主が「ずるい」と言われる最大の理由は、プライベートと事業の境界線が曖昧になりやすい点にあります。
例えば、自宅兼事務所で仕事をしている場合、どこまでが事業用でどこからがプライベート用なのかを明確に区別するのは難しい場合があります。
友人との食事を「打ち合わせ」と称して経費にしたり、趣味の旅行を「出張」として計上したりするケースが、ずるいと思われる典型例です。
また、スーツや腕時計などの身につけるものも、事業で必要と主張すれば経費にできるのではないかと誤解されがちです。
しかし実際には、プライベートでも着用する可能性があるスーツや時計は、モデルや俳優など特定の職業を除いて経費として認められません。
この公私の区別が曖昧になりやすい構造が、個人事業主に対する「ずるい」というイメージを強めているのです。
「ずるい」と「賢い節税」の違い
「ずるい」と「賢い節税」の境界線は、合法性にあります。
賢い節税とは、税法で認められた制度や控除を最大限に活用して、合法的に税負担を軽減することです。
例えば、青色申告特別控除を利用したり、小規模企業共済や経営セーフティ共済に加入したりすることは、完全に合法的な節税手段です。
一方で、「ずるい」と言われるのは、事業に関係のないプライベートな支出を経費として計上するなど、税法に違反する行為を指します。
このような行為は脱税にあたり、税務調査で発覚すれば追徴課税や加算税、延滞税といったペナルティを課される可能性があります。
正しい知識を持ち、税法に則った経費計上を行うことが、個人事業主として信頼を得るために不可欠です。
2.個人事業主が経費にできるものと条件


経費として認められる3つの基本条件
個人事業主が経費として計上するためには、3つの基本条件を満たす必要があります。
第一の条件は「事業に直接関連する支出であること」です。
売上を上げるために必要な支出、または事業を維持・拡大するために必要な支出でなければなりません。
第二の条件は「その支出を証明できる書類があること」です。
領収書、レシート、請求書、契約書など、支出の事実と金額を証明できる書類の保管が必須です。
第三の条件は「事業年度内に発生した支出であること」です。
原則として、その年の1月1日から12月31日までに支払いが確定した費用を、その年の経費として計上します。
これら3つの条件を満たさない支出は、たとえ事業に関連していると主張しても、税務調査で否認されるリスクがあります。
定番の経費項目一覧
個人事業主が経費として計上できる定番の項目を整理しておきましょう。
仕入れ・材料費系
- 商品の仕入れ代金
- 製造に必要な原材料費
- 梱包資材や消耗品
人件費系
- 従業員への給与・賞与
- 専従者給与(青色申告の場合)
- 外注費・業務委託費
営業・販売費系
- 広告宣伝費
- 接待交際費
- 旅費交通費
事務所・設備関連
- 事務所の家賃
- 光熱費(按分計算が必要な場合あり)
- 通信費(電話代、インターネット代)
- 備品購入費
その他
- 書籍購入費・研修費
- 会計ソフト利用料
- 税理士への報酬
これらはあくまで代表例であり、業種や事業内容によって経費として認められる項目は異なります。
家賃・光熱費などの家事按分の考え方
自宅を事務所として使用している個人事業主は、家賃や光熱費の一部を経費にすることができます。
これを「家事按分」と呼びます。
家事按分の基本的な考え方は、自宅のうち事業に使用している部分の割合を合理的に算出し、その割合分だけを経費として計上することです。
例えば、自宅の床面積が100㎡で、そのうち20㎡を事務所として使用している場合、面積比率で20%を経費にできます。
光熱費については、使用時間の割合で計算する方法もあります。
1日24時間のうち8時間を事業に使用しているなら、約33%を経費として計上できる可能性があります。
ただし、この按分割合は税務調査で説明できる合理的な根拠が必要です。
適当な割合で計上すると、税務署に否認されるリスクがあるため、面積や使用時間を記録しておくことが重要です。
交際費・接待費の適正な範囲
交際費・接待費は、税務調査で特に厳しくチェックされる項目の一つです。
経費として認められる交際費とは、取引先や顧客との関係を維持・拡大する目的で支出した費用です。
具体的には以下のようなものが該当します。
- 取引先との会食費用
- お中元・お歳暮などの贈答品代
- 顧客への慶弔費(お祝い金、香典など)
- 接待ゴルフの費用
一方で、以下のような支出は経費として認められません。
- 家族や友人との私的な飲食費
- 事業に関係のない人へのプレゼント代
- 明らかにプライベートな旅行費用
接待交際費を計上する際は、誰と、いつ、どこで、何の目的で支出したかを記録しておくことが極めて重要です。
領収書の裏に参加者名や目的をメモしておくだけでも、税務調査の際に有効な証拠となります。
車両費・旅費交通費のポイント
車両費と旅費交通費も、個人事業主にとって重要な経費項目です。
車両費として計上できるのは、以下のような費用です。
- 車両本体の購入費用(減価償却が必要)
- ガソリン代
- 駐車場代
- 車検費用
- 自動車保険料
- 修理費・メンテナンス費用
ただし、事業とプライベートの両方で車を使用している場合は、家事按分が必要です。
走行距離の記録をつけて、事業用の走行距離と全体の走行距離の比率で按分するのが一般的です。
旅費交通費として計上できるのは、以下のような費用です。
- 電車・バス・タクシー代
- 出張時の宿泊費
- 出張時の食事代(一定の範囲内)
- 高速道路の料金
プライベートな旅行との区別が重要で、出張の目的や訪問先、業務内容を記録しておくことが推奨されます。
3.グレーゾーンの経費と税務調査のリスク


税務署に指摘されやすい経費の特徴
税務調査で指摘されやすい経費には、いくつかの共通した特徴があります。
第一に、金額が大きく不自然な支出です。
売上に対して経費の割合が異常に高い場合や、前年と比較して急激に増加している項目は要注意です。
第二に、プライベートと事業の区別がつきにくい支出です。
衣服費、美容費、健康関連費用、飲食費などは、事業との関連性を明確に説明できなければ否認されるリスクが高まります。
第三に、証拠書類が不十分な支出です。
領収書がない、または領収書の記載内容が不明確な支出は、税務署から疑いの目を向けられます。
第四に、現金での支払いが多い支出です。
銀行振込やクレジットカード決済に比べて、現金支払いは記録が残りにくいため、架空経費を疑われる可能性があります。
これらの特徴に該当する経費が多い場合、税務調査の対象となるリスクが高まります。
実際に否認された経費の事例
税務調査で実際に否認された経費の事例を見てみましょう。
事例1:友人との飲食費を接待交際費として計上
個人事業主が友人との飲み会の費用を「取引先との打ち合わせ」として経費計上していたケースです。
税務調査で参加者の名前や所属、打ち合わせの内容を説明できず、全額否認されました。
事例2:家族旅行を出張費として計上
家族で行った旅行を「視察出張」として経費計上したケースです。
訪問先での業務実態や成果物がなく、明らかにプライベートな旅行と判断され否認されました。
事例3:スーツや腕時計を消耗品費として計上
営業職の個人事業主が高級スーツや腕時計を「仕事で必要な衣装」として経費計上したケースです。
プライベートでも使用できるものは経費として認められず、全額否認されました。
事例4:自宅の家賃を100%経費計上
自宅の一部を事務所として使用しているにもかかわらず、家賃全額を経費として計上したケースです。
合理的な按分計算をしていなかったため、按分割合を大幅に減額されました。
家族への給与を経費にする際の注意点
個人事業主が家族に給与を支払い、それを経費として計上することは可能ですが、厳格なルールがあります。
青色申告の場合、青色事業専従者給与として計上できます。
ただし、以下の条件を満たす必要があります。
- 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
- 家族が年間6か月以上、その事業に専ら従事していること
- 給与額が仕事の内容に対して適正であること
白色申告の場合は、事業専従者控除として一定額を控除できますが、実際の給与支払いは必要ありません。
配偶者は年間86万円、その他の家族は年間50万円が上限です。
注意すべきポイントは、給与額の適正性です。
実際の業務内容や労働時間に見合わない高額な給与を設定すると、税務調査で否認されるリスがあります。
また、給与の支払い実態があることを証明するため、銀行振込で支払い、給与台帳をしっかりと作成しておくことが重要です。
領収書がない場合の対処法
経費として計上したい支出があるのに領収書がない場合、どうすればよいのでしょうか。
まず、領収書がなくても経費計上できる場合があります。
以下のような代替書類があれば、証拠として認められる可能性があります。
- クレジットカードの利用明細
- 銀行の振込記録
- 請求書や納品書
- 契約書
交通費など、領収書の発行が困難な支出については「出金伝票」を作成する方法があります。
出金伝票には、日付、金額、支払先、目的を明記し、できるだけ詳細に記録しておきます。
ただし、出金伝票は自分で作成するものなので、税務署からの信頼性は領収書より低くなります。
大きな金額の支出については、必ず正式な領収書やそれに代わる客観的な証拠を確保しておくべきです。
また、レシートでも領収書の代わりになります。
むしろレシートの方が、購入した商品の内訳が詳細に記載されているため、税務調査では好まれることもあります。
4.適正な経費計上で賢く節税する方法


経費の証拠書類をしっかり残す
適正な経費計上の第一歩は、証拠書類をしっかりと保管することです。
領収書やレシートは、確定申告後も7年間保存する義務があります。
税務調査は過去5年分が対象となるのが一般的ですが、悪質な場合は7年前まで遡って調査されることもあります。
保管方法としては、以下のような方法があります。
- 月別・費目別にファイリングする
- スキャンしてデジタルデータとして保存する(電子帳簿保存法に準拠)
- 会計ソフトに添付して管理する
デジタル保存の場合は、2022年1月から電子帳簿保存法が改正され、要件が緩和されました。
スマホで撮影したレシート画像でも、一定の要件を満たせば正式な証拠として認められるようになっています。
ただし、原本の破棄は慎重に行い、法律の要件を満たしているか確認してから処分するようにしましょう。
事業との関連性を説明できるようにする
経費として計上する支出は、すべて事業との関連性を説明できるようにしておく必要があります。
税務調査で「この支出は何のために必要だったのか」と質問されたときに、明確に答えられなければなりません。
そのためには、以下のような記録を残しておくことが有効です。
- 接待交際費の場合:誰と、いつ、どこで、何の目的で会ったか
- 旅費交通費の場合:どこに、何の目的で行ったか、誰と会ったか
- 書籍購入費の場合:なぜその本が事業に必要だったか
領収書の裏にメモを書いておくだけでも、後から思い出しやすくなります。
また、事業日誌をつけることも非常に有効です。
日々の業務内容や出張先、打ち合わせの相手などを記録しておけば、経費の妥当性を証明する強力な証拠となります。
「誰が見ても納得できる」という基準で、経費を計上するかどうかを判断することが重要です。
税理士に相談すべきケース
個人事業主でも、以下のようなケースでは税理士に相談することをおすすめします。
ケース1:売上が1000万円を超えた場合
消費税の課税事業者になる可能性があり、税務が複雑になります。
ケース2:初めて青色申告をする場合
青色申告特別控除を最大限活用するためには、正しい帳簿づけが必要です。
ケース3:不動産投資や株式投資など、複数の収入源がある場合
所得の種類が複数あると、税務処理が複雑になります。
ケース4:経費の判断に迷うことが多い場合
グレーゾーンの支出が多く、正しい判断に自信がない場合は専門家の助言が有効です。
ケース5:税務調査の通知が来た場合
税務調査への対応は税理士に任せることで、適切な対応ができます。
税理士への報酬は経費として計上できますし、適正な税務処理によって余計な税金を払わずに済むことを考えれば、費用対効果は高いと言えます。
確定申告前に確認すべきチェックリスト
確定申告前に、以下のチェックリストで経費の計上漏れや誤りがないか確認しましょう。
書類関連のチェック
- □ すべての領収書・レシートが揃っているか
- □ クレジットカードや銀行の明細を確認したか
- □ 証拠書類は整理・保管されているか
経費計上のチェック
- □ プライベートな支出が混ざっていないか
- □ 家事按分の計算は合理的か
- □ 大きな金額の支出に説明ができるか
- □ 減価償却が必要な資産を正しく処理しているか
控除・特例のチェック
- □ 青色申告特別控除の要件を満たしているか
- □ 小規模企業共済などの控除証明書は揃っているか
- □ 医療費控除やふるさと納税の証明書はあるか
その他のチェック
- □ 専従者給与の届出は提出済みか(青色申告の場合)
- □ 前年と比較して異常な増減がないか
- □ 売上の計上漏れはないか
このチェックリストを使って事前確認することで、申告後の修正申告や税務調査のリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
この記事のポイントをまとめます。
- 個人事業主の経費計上は「ずるい」のではなく、税法で認められた正当な節税手段である
- 経費として認められるのは「事業に直接関連する支出」「証拠書類がある支出」「事業年度内に発生した支出」の3条件を満たすものだけ
- 会社員との違いは裁量の大きさにあり、個人事業主は自己責任で経費を判断する必要がある
- 自宅兼事務所の家賃や光熱費は家事按分によって一部を経費にできるが、合理的な根拠が必要
- 接待交際費は取引先との関係維持・拡大が目的で、誰と何の目的で使ったかの記録が重要
- 税務調査で否認されやすいのは、金額が不自然、プライベートとの区別が曖昧、証拠書類不十分な経費
- 家族への給与を経費にする場合は、事前届出と適正な金額設定が必須
- 領収書は7年間保存が義務で、デジタル保存も電子帳簿保存法の要件を満たせば可能
- 経費の妥当性を説明できるよう、事業日誌や詳細なメモを残しておくことが重要
- 税務が複雑になってきたら、税理士への相談も検討すべき
個人事業主として事業を成功させるためには、正しい知識に基づいた適正な経費計上が不可欠です。
「ずるい」と言われるような違法な処理ではなく、税法に則った賢い節税を実践し、健全な事業運営を目指しましょう。
関連サイト
国税庁ホームページ